中学生が挑んだ「1週間で奈良を舞台に映画を撮る」ユース映画制作ワークショップ。『巡 meguri』『あの世で。』を世界初上映@なら国際映画祭プレイベント2019

 2010年より2年に1度開催されている「なら国際映画祭」。その狭間にあたる今年は、「子どもたちへつなぐ心と文化」と題し、プレイベント2019が開催された。昨年から始まった、8月半ばの1週間、奈良で映画の企画からシナリオ作り、撮影、編集、仕上げ、ポスター作り、そして上映までを行う、中学生を対象にしたユース映画制作ワークショップ。2回目を迎える今年は、藤元明緒監督(『僕の帰る場所』)を特別講師に迎え、猛暑の中、中学生9人が2チームに分かれて映画制作に取り組み、映画祭最終日となった9月16日(月・祝)に会場の奈良市ならまちセンターにて世界初上映された。  

 同映画祭エグゼクティブ・プロデューサーの河瀬直美監督は、「ユースに対する一番の条件は子ども扱いしないし、子どもと呼ばないこと。こんなにほったらかしにしているワークショップはないというほど、企画段階では、ほぼ口を挟みません」とメンバーの自主的な議論を周りは見守ることに徹した制作現場の様子を紹介。昨年に引き続き2年連続参加したメンバーや、関東だけでなく、イギリスから参加したメンバーもいるなど、バラエティに富んだメンバーが作り上げた2作品はいずれも現在の若者たちの置かれた状況や悩み、死に対する考え方が浮かび上がる。


 『巡 meguri』  


 就活がうまくいかずに悩む青年は、ある老人に勧められた神社を訪れる。巫女の姿をした女性に誘われた青年は、悩みを聞いてもらうことになるのだったが・・・ 

「奈良の町に何を登場させたいか?神様という単語が出てきて、どういう物語がいいかを皆で話し合った」という本作、途中で神と人間の境界線を見せる演出もあるが「神様は思想の世界なので、三次元の人間は入れない」という設定にしたことを明かした。ロケ地として使わせていただいた格子の家に鹿の絵が書いてある屏風があったため、「せっかくあるので使おうと思い、1時間ぐらい皆で考えて(シナリオを)練り合わせていった」と臨機応変な判断があったことを明かした。 


<メンバーの感想> 

「大きいスクリーンで見ることができ、とてもうれしかった。他のチームの作品は好きな感じの映画で、こんな映像を撮りたいと思うぐらい好き。自分のチームの作品も頑張って撮ったなという思い出が蘇った」 

「(チームメンバーと)離れたくないという気持ちがでてきて、1週間で、口で言えないぐらいいろんな体験をし、参加できて良かった」 

「(自分が演じた)相槌が下手すぎて何回も取り直したけれど、みなさん何度も教えてくれた」 

「スタッフやサポートしてくれる人が皆さん本当に優しくて、感謝したいと思う」 


 『あの世で。』 


 いじめに遭い自殺した少女あきは、導かれるままに元同級生のもとを訪れる。現世に体がなければこの世に戻れないと言われたあきは、生きたいという気持ちが蘇り・・・ 

「SNSが皆の中にあり、SNSでいじめの映像がさらされる。見たくなくてもツイッターのリツートで目に触れるなど、いじめはすごく身近にある」と構想のきっかけを振り返ったメンバーは、タイムカプセルを埋める設定にするため、主人公姉妹の子役を探してもらい、参加してもらったという。また、世界遺産で撮影したため、観光客などが多く、人が入り込んでは撮り直しをするのが大変だったとその苦労を振り返った。スマホ世代ならではのiPhoneによる撮影も取り入れ、大人たちに訴えかけるような一面もにじませた。


 <メンバーの感想> 

「時間が短いとはいえ、映画を作るのはとても大変。家で珍しく疲労困憊だった」 

「時間が経って改めて見ると、どの映像もがんばっているなと思う。来年も参加したい」 

「2回目で慣れているかと思ったが、前回作ったものに引っ張られたり、それを忘れるのが大変だった」 

「一つ一つのシーンに思い出があり、いい体験ができて良かったと思う」


 藤元監督は、「撮影を完成させるだけでなく、上映までするということが特徴的で、今はスマホやテレビ画面で映画を見ることができる中、スクリーンで見て完成を実感するという流れは、僕も羨ましくなる時間でした。中には、編集段階で、最初想定していたラストとは違う流れを考え出しており、映画は撮影したら終わりではなく、完成するまで皆で考え抜くことをしっかり実践していたと思います」と、2チームのメンバーの検討を讃えた。 

 河瀬監督は、「疲れていても粘って粘って最後まで作品を作り上げる姿に私たちも力をもらいました。世界遺産の東大寺、春日大社を含め、奈良全てがユースの撮影に協力してくれています。これはお金では買えない価値、撮影したものが形として残るという、すごいことをしているんだなと思うし、世界中でこんなことをしている街はありません。世代をつないで(映画制作が行われて)いくことがとてもうれしい」と感無量の面持ち。 

  ユース映画制作ワークショップのメイキング映像上映後は、同ワークショップに関わったスタッフも壇上にあがり、ユースメンバーのひたむきな映画作りから逆に学ぶことが多かったと、感動しきりだった。ユース映画制作ワークショップは、2020年も13歳から18歳までのユースメンバーを募集し、8月に開催予定だ。