『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん 』世界名作劇場を彷彿させる大冒険アニメーション

 昨年亡くなったアニメーション界の巨匠、高畑勲監督が手がけていたことでも知られる昭和のテレビアニメシリーズ、世界名作劇場。そこでは、「アルプスの少女ハイジ」「フランダースの犬」「母をたずねて三千里」など、ヨーロッパから南米に至るまで世界中の名作が1年単位で放映され、苦難を乗り越えるまだ幼い主人公たちの成長がじっくりと描かれていた。この『ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん 』は19世紀ロシア、サンクトペテルブルグを舞台に、貴族の子女サーシャが祖父の名誉をかけて北極海を目指す姿を描く骨太のアニメーションだ。苦難に次ぐ苦難を乗り越える様や、大人社会の中で対等に働く様は、「母をたずねて三千里」のマルコのよう。階級や経験の差を超える努力を惜しまない、勇敢なサーシャにぐいぐい引き込まれる必見作だ。


 14才のサーシャは、1年前に北極航路の探検に出たまま戻らない祖父のことが心配でたまらない。捜索は打ち切られ、祖父の名を冠する予定だった科学アカデミーの図書館も開館が危ぶまれている始末。祖父と家族の名誉が失われる中、ロシア高官の父は、社交界デビューするサーシャに、皇帝の甥っ子に気に入られることで、自らのローマ大使への道が開かれることを期待していた。


 だが、祖父の航路のメモを見つけたサーシャは、捜索船の航路と異なることに気づき、舞踏会の場で王子に再捜索を直談判してしまう。王子の機嫌を損ね、父からの叱責を受けたサーシャは、一人で祖父の居場所と遭難した艦船ダバイ号を探すべく、屋敷を飛び出すのだった。


 日本で少女のキャラクターといえば、大抵愛らしい声だが、このサーシャは声からして強い意志を秘めたクールな雰囲気が漂う。貴族育ちのサーシャは、14歳と言えども社交界でデビューすべく様々な教養が備わり、かつ大好きな祖父から航海の話を聞き、彼女自身も航海や航路に関する勉強を積んでいた。一方、それ以外の日常のことは全て召使いに任せていたサーシャは、いきなり旅先でつまづくこととなる。北方行きのノルゲ号に乗せてもらうはずが、取り残されてしまい、食堂の女主人オルガの元で働きながらノルゲ号の帰還を待つ間も、初めての仕事ばかりで四苦八苦。それでも諦めず頑張りぬいたサーシャは、ノルゲ号の船長に見込まれ、なんとか乗船をさせてもらい、過酷な試練が待ち受ける北極海への探索に向かうのだ。

 厚い流氷に覆われる中、流氷を砕いて船を通行させる様子や、北極海で想像を絶する危機に見舞われ、命がけで捜索する様子が、シンプルなタッチでダイナミックに描かれ、手に汗を握る。祖父が残した航路だけを頼りに、絶対に沈まないと祖父から聞いていた艦船ダバイ号が漂流していることを信じて、弱気になる船員たちを説得し突き進むサーシャ。航海の中で、偏見を超えて船長や船員たちとの信頼関係を築き、強い信念で祖父とダバイ号を探し続ける。彼女はもはや一人前の冒険者だ。

 自分の利害ばかりを考えて動かない大人たちに愛想をつかし、自ら行動したサーシャは、彼女なりの狼煙をあげたとも言える。トム・ムーア監督の傑作アニメーション『ブレンダンとケルズの秘密』に携わってきたレミ・シャイエ監督作。これからも注目したいアニメーション作家に出会えた喜びを噛み締めたい。

現在、出町座で絶賛公開中、10月5日(土)〜第七藝術劇場、11月30日(土)〜元町映画館他全国順次公開。


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