「ホラーはやめて」から始まったワンシチュエーションファンタジー 『コケシ・セレナーデ』松本大樹監督、主演・音楽担当片山大輔さんインタビュー
「第2のカメ止め」と話題を呼んだ神戸・六甲山発ホラーコメディ『みぽりん』の松本大樹監督による緊急事態宣言解除後わずか1ヶ月半で完成させた長編第2作『コケシ・セレナーデ』が12月11日(金)よりOSシネマズ神戸ハーバーランド、今冬シネ・ヌーヴォ、京都みなみ会館他全国順次公開される。
緊急事態宣言下で自粛生活下の夫婦、大輔と萌々花。大輔は音楽の仕事ができず、何も手がつかない。そんな大輔を横目にストレスを募らせた萌々花はある日、思い立ってコケシを買い、「モモカ」と名付ける。その日以降、家の中には徐々に萌々花が購入したコケシが増え続け、ついには不思議な出来事が訪れるのだったが…。
5月8日よりYoutubeにて無料配信されたリモート短編映画『はるかのとびら』のエンディング曲「空」を担当した片山大輔が映画初出演にして初主演を務める他、本作では自宅と母(以降こけしちゃん)のコケシコレクションを提供とまさに全面協力。劇中で登場する4曲のオリジナル楽曲を書き下ろし、萌々花役の佐藤萌々花と見事な歌声や演奏を披露しているのも見どころの唯一無二なファンタジックこけし映画だ。
本作の松本大樹監督と主演・音楽担当の片山大輔さんにお話を伺った。
■「ホラーはやめて」コレクター、こけしちゃんの一言で方向転換。
―――色々な意味で片山さんがいなければ成立しなかった映画ですね。ロケ地も片山さんのご自宅ですが、どのような経緯で片山さんとしても初の主演映画が誕生したのですか?
松本:元々片山さんがバンド活動をしていた時にMV撮影を僕に依頼してくださったのが、最初の出会いで、映画が大好きということで意気投合していたんです。そこから2年ほどブランクがある中、僕が『みぽりん』を作ったことをSNSで知った片山さんが電話をくれ、「主題歌を作りたいです!」と。それで誕生したのが「みぽりんのうた」で、『みぽりん』公開時には音楽イベントや舞台挨拶をはじめ、映画を作った当初には想定もしていない形で関わってくださったので、次は片山さんと一緒に映画を作りたいという思いを強めていたんです。本当はジャック・ブラック似の片山さんを音楽の先生役にして、日本版『スクール・オブ・ザ・ロック』のようなノリノリで元気のある作品の脚本を書き始めていたのですが、いかんせん緊急事態宣言前に学校が一斉休校になってしまったので、舞台となる学校が借りられなくなってしまった。リモート短編『はるかのとびら』を撮る直前まで粘って、その企画をやろうと頑張ったのですが、断念せざるをなかった。僕も仕事がなくなってしまい、片山さんも精神的に落ち込んでいた時にリモートで話をしていると、片山さんが「家にコケシならある」と言い出したんです。
片山:『チャイルド・プレイ』のようなドールホラーならできると思い、何度も見返していました。実は飼い犬から何から何まで全部コケシだった…みたいに最後はヒヤッとした感じで終わるものを考えていたんですけどね。
松本:大事にしているコケシを使わせていただくわけですから、事前に内容をお話しするとこけしちゃんから「ホラーはやめてくださいね」と釘を刺されてしまいました。というのもコケシが怪談話や悪いイメージで使われることが多いので、コケシ好きの人たちは大変迷惑しているそうなのです。今回は使えるもの、やれることで物語を作り、ステイホームで映画制作をするのがコンセプトだったので、その制限の中でなんとか物語を考えていきましたね。
■コケシコレクションのある自宅だからできた撮影と、佐藤萌々花さんのキャスティング。
―――こけしちゃんはもうプロデューサーでもあった訳ですね。
松本:こけしちゃんは片山さんのお母さんであり、この映画のお母さんでもありますから。
片山:コケシは全部で62体あるのですが、僕が演じる大輔が驚いているように、実際にも僕が知らないうちにどんどんコケシが増えているんです。宅急便が来た時のハンコ入れもコケシのお皿とか、コケシの掛け軸、コケシのカバンと、その現象自体がホラーですよね。母がコケシに魅力を感じているのは、やはり素朴なところと装飾がとてもきれいな点で、全て手描きで作られている。伝統的なところが好きだと言っていました。
―――音楽で生計を立てる若夫婦が住むには立派すぎるぐらい、舞台となるご自宅も映画の大きな部分を占めています。
片山:こんなに掃除をするんだというぐらい、撮影前日の掃除はすさまじかった。
松本:毎週撮影に行くたびに、こけしちゃんが塵一つないぐらい掃除をしてくださいました。見えないぐらいの小さな壁の穴も「監督、CGで消しておいてくださいね」とお願いされたり、予定外の部屋で撮影をしようとすると、「そこはダメ!」とプロデューサーNGが出たり(笑)緊急事態宣言解除直後の時期だったので、まだ外に出るのもためらわれるような時でしたが、その中で映画を撮影するなら片山さん主役で、片山さんのご自宅で撮るしかないと思っていましたし、あれだけ立派な家で撮影をさせていただけたのは本当にこけしちゃんのおかげです。
―――主人公大輔の妻役、萌々花を演じた佐藤萌々花さんも片山さんの推薦だそうですね。
片山:監督からオファーの条件として歌が歌えることが入っていたので、自然と人選もかなり絞られてきたんです。佐藤さんは、大阪音楽大学の同級生でミュージカル・コース出身なので、在学中から気づけば毎日お昼を一緒に食べたり、一緒に帰ったりと仲良くしていたのですが、不思議と佐藤さんの歌声は聞いたことがなかった。でもきっと歌えるはずだと思い、監督にプッシュしました。
■演出のジレンマとコメディへの思い入れ。
―――ほぼ二人劇ですが、結構演出があったのですか?
片山:クライマックスのシーンは、それこそ細かく一切の妥協は許さないという感じで「関西のジェームズ・キャメロンや!」ぐらいの鬼っぷりでしたね。
松本:とはいえ低予算で6日間という短期間で撮影し、かなり少人数のスタッフで時間に追われていた現場だったので、なかなか演出に割く時間がなかったんです。今、『コケシ・セレナーデ』を舞台化していただけることになり、劇団の稽古に毎週参加させてもらっているのですが、1日中稽古で芝居をすることができ、毎回脚本を変えたり、何度も役者と話しながら役やシーンを作り上げていて本当に羨ましいと思いました。特にインディペンデント映画の世界では、どうしても撮影する時にバッと集まってという感じになってしまいますから。
―――セレナーデという言葉が効いてくる夫婦二人の物語で、前作『みぽりん』のホラーぶりから一転しているところも、驚きがありました。
松本:『みぽりん』を撮って、僕はコメディが撮りたいと痛感しました。ホラーであってもラブストーリーであっても、おちゃらけたシーンや卓袱台返しのシーンを絶対入れたくなる。今回だとアベノマスクネタも入れていますが、今後アベノマスクが出てくる映画はまずないでしょうね(笑)撮影中もとにかく楽しくて、今年一年を振り返っても一番楽しかった。逆にこの映画を撮っていなかったら、ただキツイだけの一年だったでしょう。人を笑わせるのはすごく難しいし、それには役者さんの技量も必要であるということに最近気づいてきたので、今後はスキルアップしてきちんとしたコメディをやりたいです。
■こだわりの音楽〜チャイコフスキーのバレエ組曲とオリジナル楽曲。
―――今回はまさに音楽映画になっていますが、音楽についてはどんなコンセプトがあったのですか?
松本:オリジナル曲は片山さんに全てお願いしましたが、それとは別に今回はチャイコフスキーを絶対に使いたかったんです。最初に人形が届き、そこからファンタジー的な物語が始まるという展開が「バレエ組曲 くるみ割り人形」に重なりましたし、チャイコフスキーの死因がコレラだったという説もあるんです。あと何曲かで構成される組曲は1曲としてカウントされることがわかったんです。組曲は物語のように構成されているので映画で使えると思い、演奏したオーケストラに対する著作隣接権料を、管理しているユニバーサルミュージックに支払いました。今回は音楽の権利料に結構お金を使ったので、片山さんにも「作曲した曲が使われれば使われるほど著作権で儲かるよ」と。
―――片山さんは主演とオリジナル楽曲を全て担当され、本当に大変だったと思いますが、曲作りについては監督からのリクエストがあったのですか?
片山:曲数は決まっていたのですが、場面がまだはっきりわかっていなかったので、まず作って送ると、速攻で監督から電話がかかり「ちょっと、これ違います」とちょっとヤバいトーンで(笑)撮影と同時進行だったので、セリフを覚えながら作曲もしてと追い込まれていた時に追い打ちをかけるように、「曲ってどうなってます?」と聞かれてプレッシャーを感じました。全て劇中歌なので、撮り終えてから曲を作るということができない中、天気の兼ね合いで1週間延期になった時は心の底からやったー!と思いました。撮影に入るまではちょっとゆるい感じで作っていたのですが、撮影に入り、本当に追い込まれながら作ったので、この感覚久しぶりやなとちょっと楽しくなりもしましたね。何よりも不思議だったのが、僕と一緒に歌う萌々花さんが一切曲作りの催促をしなかったこと。どんな曲調にも対応し、その場で修正をお願いしてもすぐに対応できる。本当にプロでした。
■クライマックス曲と親子共演のエンディング曲秘話。
―――クライマックス曲も思いがこもった名曲が誕生しました。
松本:すごく興奮して電話をかけてきたんです。片山さんが普段こんなに自信を持って「これしかない!」と言い切ることは滅多にないので。
片山:最初送った詞はちょっと違うと監督に言われ、改めて見返すとやっぱり違うなと思って僕も作り直しました。いい作品を作ろうと思うと、そういうやりとりがなければできないし、自分でもいい一曲になったと思います。劇中で登場する演歌はその場で悪ふざけで作ったのが採用されたんです。
松本:撮影後フルバージョンを作ってくれたのがすごく面白くて演歌の後に語りや沖縄民謡が入ったり、マーチにはラップパートが入ったり、色々なジャンルを入れ込んでくれ、片山さんの音楽的才能をしみじみ感じました。
―――エンディングではなんと、こけしちゃんとの親子共演も果たされていますね。
松本:片山さんがサックスを吹けると聞いていたので、フランク・チャーチルの「Someday my prince will come」を演奏できれば、著作隣接権料が要らないと思ったんです。
片山:小学生時代に発表会でサックスを吹いた時、母に伴奏を頼んだことがあり、今回共演したのですが、途中からは怒りながらやっていましたね。
松本:実は僕の無茶振りで、クライマックスシーンを生録する時にエンディングを一緒に収録しようと、撮影4日前に演奏をお願いしたものだから、そこから楽譜を探し、実質的に練習できたのは2日間ぐらいだったと思います。こけしちゃんは本当に演奏がお上手。素人にはわからないぐらいですが少しミスタッチをされていたんです。映画を見るたびに気になってしまっては申し訳ないと思い、4回ぐらいテイクを重ねました。
―――片山さんは映画初出演がラブストーリーの主役で全編出ずっぱりでしたが、どうでしたか?
片山:松本監督の作品だからこそできたと思うし、楽しかったですね。途中で『ゴースト/ニューヨークの幻』みたいにしたいという話になり、海道さんとダンスをしたり、ビニール越しの強烈なラブシーンが生まれました(笑)
松本:海道さんは今回片山さんと共演して、片山さんのことをすごく気に入られたようで、ご自身の現場で片山さんを紹介し、色々な作品に出演するきっかけを作ってくださっているんです。本業は音楽なので、そこから作曲につながるキャリア形成ができればいいですよね。
■いまだかつてないコケシ映画に挑む。
―――もう一つの主役、コケシですが、モモカと名付けられたコケシはどうやって選んだのですか?
片山:コケシを自分の目で選びたいという母(こけしちゃん)の東北旅に同行したとき、選びきれないからと僕に託されたことがありました。綺麗なコケシだなと思って選んだのが、今回モモカと名付けられることになったコケシなんです。
松本:撮影前にこけしちゃんが集めておられたコケシをずらりと並べて、メインで登場するコケシのオーディションを行ったんです。片山さんが選んだというコケシは東北の色白美人のような美しさで、ご自身が選んだこともあり、ぜひこれにしようと。
―――今回コケシを撮影して、コケシに対するイメージに変化はありましたか?
松本:最初は少し怖いというか近寄りがたいイメージがあったのですが、毎日見ていると本当に可愛くなってくる。コケシを集めているコケ女の気持ちがわかるようになりました。
片山:確かに映画としてもコケシ映画なんていまだかつてないですからね。
■「コロナがあったからこそお金の面も内容的にもこの作品を撮ることができた」(松本)
「決して人類はコロナに負けっぱなしではなかった」(片山)
―――立ち止まってしまっている人の背中を優しく押してくれるような作品でしたが、お二人からメッセージをお願いいたします。
松本:片山さんをはじめ、この作品を作るのに協力していただいたみなさんに本当に感謝していますし、コロナ禍で大変な中、劇場でかけていただけることにも本当に感謝しています。第一波の時に映画を撮り、第二波の時に完成披露試写会をし、第三波の時に劇場公開というのもこの作品の宿命かなと思っていますし、コロナで大変ではあったけれど、コロナがあったからこそお金の面(持続化給付金)も、内容的にもこの作品を撮ることができたと思っています。片山さんの最後の歌をぜひ観に来ていただきたいし、少しでも前向きな気持ちになっていただければうれしいです。
片山:緊急事態宣言解除後に作ったかけがえのないものですし、見てよかったなとか、少しでも元気になれる要素があればうれしいです。一生懸命作ったものが、劇場公開にこぎつけられたことが本当にうれしいですし、コロナで大変だった一年ですが、決して人類はコロナに負けっぱなしではなかったぞ、こんなものが作れるんだと言いたい。ぜひ観に来ていただきたいですし、今映画を観るのがしんどいのなら、作品は残りますので、また時期を改めて観ていただければうれしいです。
(江口由美)
<作品情報>
『コケシ・セレナーデ』(2020年 日本 75分)
撮影・脚本・監督・編集:松本大樹
音楽:片山大輔
出演:片山大輔、佐藤萌々花、海道力也、上野伸弥、篁怜、うみのはるか、藤本豊、森川鉄矢、梅本奈己峰、史志
公式サイト→https://kokeshiserenade.com/
©CROCO.LLC ALLRIGHTS RESERVED
コケシ愛溢れた超豪華パンフレットと、片山大輔作詞・作曲の劇中歌に、「コケシ・セレナーデ」映画オリジナルバージョンとアレンジバージョンも加わったサントラCDも発売!
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