『まっぱだか』観客に突き刺さる"リアル"がある映画


    MOOSIC LAB参加作品『1人のダンス』『追い風』でもお馴染みの安楽涼監督と、同じく、映画製作と俳優を続ける『轟音』の片山享監督が共同でメガホンをとり、元町映画館の10周年記念作品となった映画『まっぱだか』。その上映が2021年8月21日より、ついに元町映画館で先行スタートした。


神戸から生まれた伝説のカルト映画『みぽりん』に続き、2度目の長編主演作となった津田晴香さんと、安楽・片山組の作品で確かな存在感を発揮してきた柳谷一成さん。

2人が主演を務めた本作では、安楽涼さん、片山享さんの両監督にあわせ、同組の常連で『宮田バスターズ(株)-大長編-』の公開も控える大須みづほさんが脇を固め、大切な人の存在を忘れられない俊と人当たりが良い自身の性格に悩みを抱えるナツコが、本音でぶつかり合う人間ドラマを描いている。



笑うナツコと怒る俊、作り笑顔に戸惑うナツコと笑顔を求めるバーの店長・横山、過去に囚われる俊と彼を叱責する友人・吉田。

剥き出しの感情がぶつかり合う本作では、俊とナツコが他者の考えや価値観との衝突を経て、新たなものを発見していく姿が印象的だ。

脚本は片山監督が中心となって執筆後、安楽監督が場面を追加。その結果、ラストシーンにも変化が生まれたそうで、作品そのものが"衝突"を経て、新たなものを発見していったという裏話も興味深い。



また、本作は神戸ロケ映画の中では珍しく、元町という地域に密着した映画ということにも注目していただきたい。

神戸と聞くと、オシャレな街の景観や山と海に囲まれた地域といったイメージが強いが、本作で映し出されるのはロケ地・元町のディープなスポットだらけである。実在のバーや高架下の歩道橋など、地元に住んでいる人でも知らないようなマニアックな場所も多く、地元民にこそ新たな発見がある映画と言えるだろう。


もともとは元町映画館10周年を記念した短編オムニバス映画の一編として企画されていたが、監督の熱量から、いつの間にやら長尺になり、今回の形になったという経緯もある『まっぱだか』。そのため、本作は元町映画館の記念すべき初配給作品にもなっている。(本来のオムニバス映画『きょう、映画館に行かない?』は、元町映画館で今秋公開予定。)

両監督は過去に『1人のダンス』を上映した際、街の人々と交流を深めた経験があったのだという。その縁から、劇中では実在の人々も多数登場しており、これまで映画として取り上げられることの少なかった元町の風景のみならず、そこに生きる人々の魅力が存分に溢れた一作にもなっている。

ちなみに、元町映画館の10周年に合わせ、その歩みを記録した『元町映画館ものがたり』も好評発売中。今後、元町という地域や元町映画館という場所が、どのように捉えられていくのかも気になるところだ。



また、『まっぱだか』では、役者陣との意見交換や監督自身の実体験を基に作り手の"リアル"が強く反映されたという物語も印象的。そこに即する形で手持ちカメラを用い、ドキュメンタリーのように撮られた映像には、観客を突き刺す熱い思いが感じられるだろう。

過去のインタビューによると、監督は台本にとらわれず、演者の素直な気持ちを引き出す演出を大事にしたとのこと。現実に向き合う製作の姿勢は、物語のテーマとも通じているのかもしれない。


本作は、人間関係のめんどくささを描いた題材ゆえに、受け手によって意見が"まっぷたつ"に別れる作品ではあるだろう。

しかし、筆者の場合、見終わった後に残ったのは不思議と辛いものではなく、むしろ、ささやかな安堵感と明日に向き合う勇気だった。

本作を見終えた後、それぞれの観客が何を受けとるのかは分からない。

けれど、街の中で生きる実在の人々や自身の弱さに向き合って前へ進む人物の姿からは、誰しもが大きな力を与えられることになるだろう。

(大矢 哲紀)


<作品情報>

 『まっぱだか』

2021年/日本/99分

監督・脚本・編集:安楽涼、片山享

出演:柳谷一成、津田晴香、安楽涼、片山享

8月21日(土)より元町映画館、9月10日(金)より京都みなみ会館、

9月11日(土)より、大阪シネ・ヌーヴォにて京阪神先行ロードショー。

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