『あした、授業参観いくから。』忘れがたい日が焼き付ける親子の情景


 『あした、授業参観いくから。』というタイトルと、片岡礼子扮する英語教師のトップ画像を見て、本作の安田真奈監督の着眼点にさすが!と思った。短編を撮り続けてきた会社員時代を経て、劇場デビュー作となる『幸福(しあわせ)のスイッチ』(06)で電器屋父娘の物語を人情味豊かに描いた安田監督。子育て期に脚本を担当したNHKドラマ「やさしい花」は、児童虐待する母の再生がテーマで、以降同作の上映会&トークを各地で実施し、困難を抱えた家庭の実情にも多数触れてきたという。そんな安田監督だからこそ描ける家族模様を、この参観日をめぐる物語をどのように取り入れるのか。そんな期待が鑑賞前からあった。



 朝から足取り重く学校に向かう、教師生活一筋の則子。趣のある学校の校舎は、神戸市長田区にあるふたば学舎がロケ地だ。クラッシックな木の雰囲気とアーチが素敵な校舎に入り、早々に仕事を始める則子。そんな黙々とした仕事風景とは裏腹に、生徒たちへの声がけは朗らかで、賑やかな生徒たちを前に、どこか楽しげに授業をしている。時折届く、母からの写真付きメッセージも、良好な母娘関係を思わせる。一人暮らしの則子の1日を縦軸に、横軸で描かれるのはクラスの5人の生徒とその親とのやりとりだ。



「あした、授業参観いくから。」という親の呼びかけからはじまる一連の会話。だが、それぞれの家庭でその話題になる時間帯も違えば、話しかけるタイミングも違う。何よりも、親が授業参観に行くと明言したときの子どもたちの反応が見事に違う。参観日は親にとってはどこか気合いを入れていくものだが、子どもにとっては嬉しい人もいれば、来て欲しくない人もいるだろう。それぞれの家庭の状況、親との関係やその背景を一瞬の親子の会話から想像させるのだ。しかも短編でそれをやってのけるのだから、本当に驚くばかりだ。



 育児放棄気味に思える母もいれば、息子に異様な圧を感じさせる父、母亡き後娘と二人で暮らして来た父など、多彩な親子関係を見せる家のつくり(ロケーション)の数々や、子どもの感情を際立たせる照明、音など、決められたセリフ以外の情報量も豊かで、一瞬にして5つの親子の日常を想像したり、自分の境遇に重ねてみたり、この時点ですっかり映画を観る楽しみを存分に味わっている。決められたセリフから演技によっていかに世界観が広がるかも感じられるだろう。



 これらの5つの親子と則子が一同に会する授業参観で何が起こるのか、そしてそれからと鮮やかな展開に魅せられ、そして最後につくづくと思うのだ。授業参観は子どもにとっても親にとっても特別記憶に残る日なのだと。良い思い出かもしれないし、悪い思い出かもしれない。親に褒められたり、怒られたりした思い出、親の立場として行くと、今度は子どもの行動に赤面したり、成長が眩しく見えたり。そんな様々な自分自身の思い出も観終わったら語りたくなるのだ。最近、母親役がめっきり増えた片岡礼子の飾らない自然体な働く女性の姿が、まさに先生のようにこの作品をしっかりと底支えし、あることを前に揺れ動く表情と言葉ひとつひとつに心揺さぶられた。短編だからこそ本当に何度でも観たくなる、親子の会話が弾む短編。安田真奈監督の今までの経験が凝縮した家族映画だ。

(江口由美)



<作品情報>

『あした、授業参観いくから。』(2021年 23分 日本)

脚本・監督:安田真奈

出演:片岡礼子、和泉敬子、前田晃男他

2022年1月15日よりシアターセブンにてアンコール上映、他順次公開

※上映後に主演・片岡礼子さんのビデオメッセージを上映