舩橋淳監督、「独立映画鍋」と最新作『ポルトの恋人たち 時の記憶』をはじめとする国際的な共同制作への取り組み方を語る@京都フィルムメーカーズラボ マスターズセッション オープン講座 


11月4日まで開催中の第10回京都国際ヒストリカ映画祭の企画の一つとして、世界各国からの若手フィルムメーカーたちが参加し京都の撮影所で、撮影所のプロスタッフと共にチャンバラ映画を制作する「京都フィルムメーカーズラボ」があるのをご存知だろうか。撮影と並行して映画界を代表する監督らが講師となり、マスターズセッションが開催されている。近年は、東京国際映画祭の審査員や来場ゲストを講師として招き、一部はマスターズセッションオープン講座として一般に公開されている。


 11月1日に開催された今年の京都フィルムメーカーズラボ マスターズセッション オープン講座では、午前中に東京国際映画祭日本映画スプラッシュ審査員によるトークが行われた。引き続き、午後に行なわれたのは、以前にもマスターズセッション講師として登壇し、独立映画鍋メンバーでもある舩橋淳監督が講師を務め、自身の作品を例にあげながら、国境を越える映画作りのきっかけや、成功のポイントを解説した。作品ごとに、その内容をご紹介したい。 


『ビッグ・リバー』(2004)

 〜パキスタン人プロデューサーとの価値観の違いで、撮影直前までシナリオを巡り攻防〜 

舩橋監督の初商業映画『ビッグ・リバー』は、白人女性、アメリカでは差別されているパキスタン人の移民男性、日本人男性がトラブルに巻き込まれながらも友情を育んで行くロードムービー。


当時は、ブッシュ大統領がアメリカ同時多発テロへの戦いを宣言し、タリバンへの対テロ戦争を行なっていた時期で、排外的かつ攻撃的な空気が漂い、外国人として現地で暮らしていた舩橋監督も奇妙さを感じていたという。そのような状況下でインドからやってきたターバンを巻いたシーク派の男性が、立ち寄ったガソリンスタンドでアメリカ人に射殺され事件がおき、全米で波紋を巻き起こした。


舩橋監督は、そのニュースにもインスピレーションを受け、コプロダクションマーケットのピッチングセッション(この方法は非常にお勧めと力説!)で自分の企画をプレゼンテーションし、パキスタン人とアメリカ人のプロデューサーが参加してくれることになったそうだ。 


実際映画の制作が始まると、価値観をはじめ、違いの多さに驚いたという舩橋監督。中でも、脚本で、パキスタン人移民のアリが、奥さんを探しにアメリカに来たという設定に「パキスタンの女性が自分の国から出国しアメリカ人と一緒になることは珍しいことで、パキスタン人プロデューサーは受け入れてくれなかった。結局、アリは妻を失うものの、二人の新しい友達ができることを物語の核として脚本を完成させましたが、撮影地となったアリゾナの田舎で、撮影直前までディスカッションをしました。映画で起きていることは、まさに我々の中で起きていたことで、今なら笑い話ですが、その時は発狂しそうになりました」とジェスチャーを交えて、当時の様子を振り返った。


 『桜並木の満開の下に』(2012) 

〜釜山国際映画祭のファンドで金銭だけでなく人的支援を受け、満足のいく体験に〜

 次は、成瀬巳喜男『乱れ雲』にインスピレーションを受けた恋愛ドラマ『桜並木の満開の下に』。「最初は殺したいと思っていた、罪を犯した人と一緒にいることで、ヒロインはシンパシーを感じるようになっていきます。東日本大震災では地震と津波で約2万人の人が犠牲になり、心に穴が空いたようでした。そのような喪失感をあからさまに表現するのではなく、小さなラブストーリーの形で示したいと思ったのです」と作品の狙いを語った。 


さらに、制作事情については、釜山国際映画祭には映画制作だけでなく、撮影や、ポスプロ、脚本まで全てに渡ってファンドが設けられていることに触れ、『桜並木の満開の下に』は非常に倍率が高い中、日本映画で初めてそのファンドを獲得し、制作した作品であることを説明。単に金銭的支援だけではなく、専門家の支援もあったとし、「サウンドミキサーでは、キム・ギドクやパク・チャヌク作品にも参加した第一人者を僕の作品につけてくれました。喋り声だけでなく、自然の音もどれぐらいの大きさにするのかは、ストーリーの解釈にも関わって来ます。私自身も彼らから多くを学び、新しい環境の中で出会いがありました。韓国では非常に満足のいく経験ができたのです」と人的交流がいかに豊かな経験を与えるかを熱く語った。  


『ポルトの恋人たち 時の記憶』(2018)

 〜マノエル・ド・オリヴェイラ監督スタッフ達と、二つの時間、二つの国の“ボーダー”を考える作品に〜 

11月10日より劇場公開される最新国際制作作品は、ポルトガル、アメリカ、日本による合作。故マノエル・ド・オリヴェイラ監督ら4人の巨匠監督によるオムニバス映画『ポルトガル、ここに誕生す~ギマランイス歴史地区』のプロデューサーを務めたロドリゴ・アレイアス氏に2014年、ポルトガルで映画制作をしないかと声をかけられたことが本作のきっかけだったという舩橋監督。「マノエル・ド・オリヴェイラ監督や、ペドロ・コスタ監督は大好きだが、ポルトガルには行ったことがないと言うと、『来なさいよ』とアレイアスさんに言われ、シナリオハンティングで2週間ポルトガルに滞在しました。本当に素晴らしい滞在だったので、日本とポルトガルをめぐる物語を書こうと考えました」とまさにゼロからの出発であったことを明かした。


さらに、その内容に言及し、「16〜17世紀は日本からポルトガルへ奴隷を送っていた時代です。ポルトガルは銃とキリスト教で、日本に対しアメとムチ的政策をしていました。人間だけが国境を持っているし、当時は人々の生き方として階級あり、差別化していました。今のアメリカが『アメリカファースト』と訴えているのも同じことです。でも、そもそも境界の定義とは何なのか。21世紀の日本でも国境があり、移民が大きな問題担っています。浜松に大きな日系ブラジル人コミュニティーがあるのも、実際に問題視されています。これは境界についての映画です。二つのストーリーを並べることで、なぜ境界を作り続けるのかを問いかけています。境界は人間が作ったフィクションであり、僕はそんな境界は本来存在しないと思っています」と、自分側、あなた側と分けることが差別に繋がり、現在の様々な問題が引き起こしていることを示唆した。 二つの時代、二つの物語、一人二役という意欲的な試みをすることで、面白い化学反応が映画にも起こると語る舩橋監督。さらに、友人たちと作品を作ることの大事さに言及し、「人と歩む方が面白く、プロセスにおいて特別な化学反応が起こります」と京都メーカーズラボ参加者にこの機会を有意義に生かしてほしいとアドバイスを送った。 


 ■独立映画鍋の活動について


冒頭で独立映画鍋運営メンバーとして登壇したのは、京都フィルムメーカーズラボ マスターズセッション参加経験者でもある大原とき緒さん。大原さんは、インディペンデント・フィルムメーカーと上映活動に携わる多くの人々、それらを取り巻く環境をサポートするシステムとして設立された「独立映画鍋」についての紹介や、この夏起きた西日本豪雨災害への支援として大原さんが発起人となって開催したオンラインシアター、「ドネーションシアター」の内容と成果について英語でプレゼンテーションを行った。 



最後に舩橋監督は、日本の場合、映画づくりそのものがインフラそのものになっていない現状があり、だからこそ独立映画鍋のような団体が必要であることを説明。 「国際映画祭において、どのような働きかけをすれば日本の映画を面白いと感じてもらえるのか。日本のインディペンデント映画についての質問があれば、いつでも独立映画鍋にコンタクトしてほしい」と受講しているフィルムメーカーたちに呼びかけた。 舩橋監督自身が取り組んで来た国境を超えた共同制作、そして日本でインディペンデント映画に携わる人たちの議論の場でもあり、社会や世界に働きかける組織でもある「独立映画鍋」。そのリアルで熱い声が、これから各国に戻って、または海外を飛び回りながら映画を撮るであろう若きフィルムメーカーたちに大きな気づきを与えたことは間違いない。

(江口由美)