「大阪アジアン短編映画祭と呼べるぐらい短編が充実!」プログラミングディレクター、暉峻創三氏に聞く第17回大阪アジアン映画祭の見どころ
2022年3月3日(木)から大阪アジアン・オンライン座が全世界配信中の第17回大阪アジアン映画祭(OAFF2022)。いよいよ3月10日(木)よりスクリーン上映がスタートする。例年通り、梅田ブルク7、シネ・リーブル梅田、ABCホール他で開催されるOAFF2022。今年は、昨年『いとみち』でグランプリと観客賞をW受賞した横浜聡子監督の過去作やドラマ監督作を一挙紹介し、そのキャリアを振り返る「焦点監督:横浜聡子」を企画。さらに新鋭、東かほり監督作に世界で初フォーカスする「インディ・フォーラム部門《焦点監督:東かほり》」を設けた。
コロナ下で3回目の開催となる同映画祭プログラミングディレクターの暉峻創三さん(以下暉峻PD)に今年の傾向や注目ポイントをうかがった。
■オープニングとクロージングは海外監督が日本を舞台に、日本の一流映画人と撮った『柳川』、『MISS OSAKA(原題)』
映画祭の顔ともいえるオープニング作品とクロージング作品には、海外監督が日本を舞台に、日本の一流映画人と撮った作品が選ばれた。まずは昨年のOAFFとのつながりに触れた暉峻PDは、「昨年のクロージング作品『アジアの天使』(石井裕也監督)主演の池松壮亮が、今年のオープニング作品『柳川』の日本人のメインキャストとして出演している。昨年映画祭の幕を閉じた人が、今年の幕を開けに来てくれたと言えるだろう」とコメント。
オープニング作品の『柳川』を監督するチャン・リュルはソウル在住の朝鮮系中国人で、長年、韓国語映画を作ってきた。今回、久々に母国で中国人俳優と一緒に作った作品になっている。
「タイトルの『柳川』はダブルミーニング。一つは地名(福岡の柳川)、もう一つは人名。中国語で柳川はリウチュアンと読み、主人公の兄弟が若いころ共に愛した女性の名前で、行方不明のリウチュアンを探す物語の鍵を握っている」(暉峻PD)
一方、クロージング作品の『MISS OSAKA(原題)』も、大阪・ミナミに実在するクラッシックなキャバレー、「ミス大阪」と、「大阪の女性」というダブルミーニングのタイトルになっている。監督は日本で初紹介されるデンマークのダニエル・デンシック。ノルウェーではじまり、大阪で物語が展開する本作では、ミス大阪のホステス役に阿部純子が出演する他、森山未來、南果歩と日本映画の枠を超えて活躍している一流の国際派俳優が揃った。
「同じ日本でも切り取る角度が違うと見え方が違ってくる。『MISS OSAKA(原題)』は大阪の人にも発見があるはずです」(暉峻PD)
■作品の出来栄えが素晴らしい!ボリュームたっぷりの激推し短編プログラム
今年の特徴はなんといっても短編の比率が激増したことだと、暉峻PDは指摘する。
「大阪アジアン短編映画祭と呼んでいいほど、短編は例年より10作以上多く映画祭における比率が激増した。出来栄えが素晴らしいものばかりで、厳選を重ねてようやくこの数に収まったほど。短編プログラムは、なるべく異なった国、異なったタイプの映画を3〜4本組み合わせているので、発見だらけです。ぜひご覧いただきたい」
その中でも注目作は、
『自分だけの部屋』監督:シエ・イーラン(謝依然)
「フランス映画のような作り。色彩の演出、カット割りを見ると、ヌーヴェルヴァーグの映画をよく勉強したことがわかる。映画の始まった瞬間からすごい!と感じる北京電影学院学生の作品」
『エンクローズド』監督:ヤン・イー(楊翼)
「アメリカが舞台で俳優はアメリカ人だが、制作スタッフはほとんど中国人の米中合作。
緊張感の作り出し方がとてもうまく、卒業制作的な作り方をされているので、今後が期待される。」
『二度と一緒にさまよわない』監督:ユージーン・コシン
「ウクライナのドネツク出身、モスクワで映画を学んだユージーン・コシン監督によるウクライナとロシアの合作。トルコで偶然出会った男女が街をさまよい歩く物語を圧倒的な演出力で描いている」
『めちゃくちゃな日』監督:チャオ・ダンヤン(趙丹陽)
「今は映画を目指す中国の若い人材が韓国に留学し、勉強しているケースが多い。本作のチャオ・ダンヤン監督もそのひとり。指導教員は『イルマーレ』『青い塩』(OAFF2011)のイ・ヒョンスン。作品にも自身の体験が反映されている」
他にも短編プログラムでは、
・OAFF常連の宮崎大祐監督が初の原作ものを手がけ、ジャズを作品に取り入れた『北新宿2055』
・『東京不穏詩』で最優秀女優賞を受賞した飯島珠奈が、『ガーデンアパート』の竹下かおり主演で描く『Natsuko』
・東京藝術大学大学院映像研究学科で黒沢清、諏訪敦彦に師事した鈴木冴が、『シスターフッド』、『COME & GO カム・アンド・ゴー』の兎丸愛美主演で描く『人知れず』
と必見作が揃う。
■エンタメから初の香港ボリウッドまで、大豊作の香港映画
今年のコンペティション部門全15本のうち、3本の入選を果たしたのが香港映画だ。
社会的な制約が厳しいだけでなく、コロナに関する政府の規制も中国と同一路線で厳しく映画制作自体が非常に困難な状況に置かれていることは事実だが、作品数だけでなく、その
クオリティが素晴らしいと、暉峻PDも太鼓判を押すほどの大豊作だったという。具体的にその見どころをコメントと共に紹介しよう。
『アニタ』監督:リョン・ロクマン(梁樂民)
「日本の香港映画ファンの中でも超話題作。アニタを演じたルイーズ・ウォンはモデル出身で、アニタ役に抜擢された新人俳優。初主演作が突然香港映画史上ナンバーワンヒットという記録を作ったのも伝説になるはず。物語の素晴らしさに加え、リョン・ロクマン監督の演出力の素晴らしさが光る」
『黄昏をぶっ殺せ』監督:リッキー・コー(高子彬)
「香港は日本以上に高齢化社会で、本作も高齢者にターゲットを絞った作品。人気俳優ニコラス・ツェーの父、パトリック・ツェーは1960年代のトップスターで、近年は特別出演が多かったが、本作は久しぶりの主演作。見事、香港電影評論学会大奬最優秀男優賞を受賞している。映画も最近活躍する場のなかった人が、人生の最後に大活躍する局面が訪れる物語で、俳優たちの現実とリンクしているのではないか。昔のアクション映画へのオマージュも込められた作品」
『私のインド男友』監督:シュリ・キショール
「今回インド映画として入選しているものに歌って踊るシーンはないが、この作品はインド映画らしい歌って踊るシーンが満載。シュリ・キショール監督はインド映画界で活躍し、香港で現地女性と結婚した中華系インド人。香港映画をインド人監督が監督したのは歴史的快挙で、今までに全くないタイプの香港映画になっている」
『僻地へと向かう』監督:アモス・ウィー(黃浩然)
「香港人が作った香港映画。『点対点』(OAFF2015)のアモス・ウィーは、香港にこんな場所があったのかと思う場所をラブコメの中で観客に辿らせる。香港映画ファンにとっても驚きがある一作」
『凪』監督:サーシャ・ジョク(祝紫嫣)
「香港人のサーシャ・ジョク監督が、台湾と香港の公的な補助金を得て作った作品。監督自身が演じる主人公は何かの事情で高雄にやってきた背景があり、最後の展開も今の香港の社会情勢を反映している。ちなみに香港での公開を控える初長編『但願人長久(原題)』は、OAFFでも多く上映してきた 首部劇情電影計画の入選作」
■実績のある監督と新人監督の実力作が拮抗するコンペティション部門
今年のグランプリ作はどの作品か。毎年映画祭ファンが注目するコンペティション部門の今年の傾向は、日本でも他映画祭で紹介されてきた実力、実績のある監督と、初監督作や2作目という新人監督とが拮抗している点にあると暉峻PD。
実力派監督の作品として、
・『ダイ・ビューティフル』のジュン・ロブレス・ラナ監督(フィリピン)がフィリピン映画界最大の祭典、メトロ・マニラ映画祭で主要賞を独占した『ビッグ・ナイト』は、ドゥテルテ政権による人権侵害が叫ばれるほどの麻薬取締を題材にしたブラックコメディ。主演作『インスタント・マミー』『アイ・トゥビトゥビトゥ』で映画祭に来場を果たしたユージン・ドミンゴのマダム役も期待大。
・暉峻PDが「モンゴル映画の概念を突き崩してくれる映画」と絶賛コメントを寄せるのは、モンゴル版アカデミー賞常連のジャンチブドルジ・センゲドルジ監督(モンゴル)作『セールス・ガール』。親の意に沿って生きてきた少女が、ひょんなことからアダルトグッズショップのアルバイト店員になったことから展開する物語は、多彩な音楽に彩られているのも注目。
・マレーシアからはヤスミン・アハマドと並び、マレーシアニューウェーブを起こしたタン・チュイムイ監督が、約10年の監督業休止を経た復帰作『野蛮人入侵』。自ら主演・脚本も務めた新感覚アクション映画になっている。
「以前からマレーシアニューウェーブに注目してきた人にとっては、『タレンタイム~優しい歌』の音楽監督を務めたピート・テオやジェームス・リー監督が登場するなど、懐かしさを感じさせるのではないか。今回は商業映画に絡めた作りになっているのにも注目。オンライン開催のシンポジウム『多刀流の野蛮人:多言語アジアで映画をつくる』では、プロデューサーのウー・ミンジンさんが登壇されるので、こちらもぜひ楽しみにしてほしい」(暉峻PD)
・バングラデシュニューウェーブのエース、モストファ・サルワル・ファルキ監督の『ノー・ランズ・マン』。
「『スラムドッグ$ミリオネア』の音楽でも知られるインドの作曲家、A・R・ラフマーンが音楽だけでなく、プロデュースも務めた作品。主演のナワーズッディーン・シッディーキーは『バジュランギおじさんと、小さな迷子』『めぐり逢わせのお弁当』など日本でも主演作が多数公開されているスター俳優で、作品によって全く違う顔を見せてくれる」(暉峻PD)
最後に新しい才能の中で、暉峻PDが注目作として挙げた2作品をご紹介しよう。
・1990年代、台湾中南部で深刻な嫁不足を解消するためベトナムやインドネシアから積極的に受け入れていた新移民と呼ばれている外国人妻を題材にした『徘徊年代』。チャン・タンユエン監督の初長編だ。
「台湾映画だが主人公ヴァン・トゥエはベトナム人で、演じているアニー・グエンも同じ立場の方。台湾が東南アジアからの移民に支えられている現実を、長いスパンをかけて描いている。まさに、『悲情城市』のような風格を備えた作品」
・「焦点監督:横浜聡子」で脚本担当作「ひとりキャンプで食って寝る 第7話 西伊豆でコンビーフユッケ」が上映される飯塚花笑監督の最新長編『世界は僕らに気づかない』。
「群馬の片田舎を舞台に、日本人だけではない世界を描く。今年のコンペティション部門唯一の日本映画で、注目すべき才能」
第17回大阪アジアン映画祭は、オンライン座が3月3日(木)から3月21日(月・祝)まで、スクリーン上映は3月10日(木)から3月20日(日)まで開催。
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